大塚啓三郎と窯業技術支援センター


近代益子焼の陶祖 大塚啓三郎(おおつかけいざぶろう)さんを調べるうちに、現在の栃木県窯業技術支援センターとの関わりが深いことを知り、今回は啓三郎さんゆかりの地と窯業技術支援センターを中心に現地を見てまいりました。あわせて、大塚啓三郎陶祖碑のある西明寺から近い、地蔵院に建設中の陶器販売新店舗工事状況もチェックしました。

■陶祖 大塚啓三郎プロフィール

嘉永六年(1853)、ペリーが黒船で浦賀にやってきた江戸末期、大塚啓三郎は益子の根古屋(ねごや)に窯を築き、二十六歳で陶業を開始しました。資料によっては嘉永五年というものもあります。

啓三郎は文政十一年(1828)益子の隣町、栃木県芳賀郡茂木町福手で杉山次郎平(すぎやまじろべえ)の次男として生まれ、少年時代に茨城県笠間の鳳台院に住み込み、寺子屋教育を受けます。

ときの十一世大関雄山(おおぜきゆうざん)住職が笠間久野窯(くのがま)の経営に参画していたこともあり、啓三郎も窯の経営のみならず、製造方法も学んだようです。
その後、啓三郎は益子の大塚平兵衛(おおつかへいべえ)の婿養子となり農業に従事します。

福手の生家と益子の婿家と間を往来する途中、益子大津沢の土が製陶に適していることを発見しました。
この土を使い、農業のかたわら現在の町並みに面した自宅近くで陶器製造を始めました。

その後黒羽藩主大関候は、根古屋に土地を与え窯業を許可し奨励しました。

【図1 根古屋 大塚窯レイアウト】
【図2 根古屋 大塚窯出土品A】
【図3 根古屋 大塚窯出土品B】
【Googleマップ 根古屋 大塚窯付近】

 

大塚啓三郎が陶祖として仰がれているのは、単にはやく窯を築いて瀬戸焼をはじめたということだけではありません。

【写真1 西明寺 陶祖碑】 【写真2 陶祖碑文の一部】
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【Googleマップ 益子 西明寺】

 

嘉永以後、益子で瀬戸焼が逐次盛んになるにつれ、啓三郎はその隆盛を永く維持し、より安定した産業へ発展させていくべき方策について苦慮したようです。

黒羽藩に後継者育成などの意見書を提出し、幕末から明治にかけて仕法の制定を働きかけ、啓三郎の堅実な経営も評価されて、実施にうつされたということです。

これら仕法により益子は、はだか一貫の職人でも窯元になり得た魅力が、多くの職人の往来をうながしたものと言われています。

このようなことが、今でも外からの人々を受け入れ育てる風土の礎となっているのかもしれません。
■大塚啓三郎と窯業技術支援センター

大塚啓三郎さんが窯業後継者育成の礎を築かれた後、益子陶器同業組合が明治三十六年(1903)に設立され、陶工養成のため、組合立の益子陶器伝習所が設置されました。

当初は、啓三郎直系の大塚忠二さんが同組合の組長と伝習所の初代所長を兼任され、益子陶器伝習所は、根小屋の大塚忠二の製造場内に置かれました。

【写真3 旧大塚啓三郎宅窯場】
【写真4 現在の根古屋大塚窯】

 

(根古屋 大塚家の現細工場の一階は石組みのしっかりした建造物で、明治四十一年に組合立伝習所として建設されたと考えられています)

大正二年(1913)には益子町立となり、町内字城内の大塚道之助窯に移り、この伝習所は大正中期に町内観音寺近くの大塚平八窯に移転しました。

昭和十三年(1938)、益子陶器伝習所は現在の窯業技術支援センターの現在地に移転し、益子町立益子陶器試験所と改称しました。

翌年の昭和十四年(1939)には県に移管され栃木県窯業指導所となり、平成十五年(2003)に現在の栃木県産業技術センター窯業技術支援センターに改編されました。

【図4 陶器伝習所 所在変遷図】
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■現在の窯業技術支援センター

現在のセンターは、益子焼の特徴や魅力を肌で感じていただける「開かれた研究施設」として運営されています。
指導所時代も含めセンター卒業生約300名のうち約6割が益子近隣地域で作陶をされているそうです。

少し古い資料ですが、昭和四十四年~昭和六十二年の栃木県窯業指導所伝習生・研究生の出身地と最終学歴は表1の通り、地元中心ですが、東日本から西日本まで幅広い地域から受け入れています。

【表1 窯業指導所伝習生・研究生の出身地と最終学歴】

 

ここでは毎年、ロクロ成形など作陶に関する基礎的な知識・技術習得をおこなう伝習生10名と、独自のカリキュラムでの専門技術を習得する研究生数名が学んでいます。

学校給食にも使用可能な、従来の3倍の強度を有する強化陶器の開発や、高齢者や障害者向けにスプーンやフォークを使いやすくするための形状を工夫したボウルなど、時代の要求に対応するデザインや技術の研究開発をしています。

センターの展示室は、平成十六年(2004)に増築され、人間国宝の濱田庄司さん、島岡達三さんなど有名作家の作品や、センター卒業生の作品、上記の強化陶器など研究成果も展示されています。
かつて島岡達三さんは栃木県窯業指導所で技師を勤められたそうです。

この展示室にはセンター卒業生で、当店お取扱作家 石崎麗さんの制作品も展示されています。
見学される際にはセンターにお問い合わせください。

栃木県窯業技術支援センター
窯業技術支援センター
〒321-4217 栃木県芳賀郡益子町益子695
TEL.0285-72-5221
FAX.0285-72-7590
【写真5 現在の窯業技術支援センター】
【Googleマップ・窯業技術支援センター】

 
■最新店舗情報

益子地蔵院近くの大手小売業者の工事中新店舗です。

信頼できる筋の話では、オープン予定が延びて、正月明け早々ということです。現場を見ると年末年始も入るので大変そうです。オープン楽しみにしています、がんばってください。

【Googleマップ 益子 地蔵院】
【写真6 現在の地蔵院】
【写真7 工事中の新店舗】↓zoom↓

 
参考資料
・益子町史、益子町史編さん委員会
・日本のやきもの15益子、株式会社淡交社、濱田庄司、塚田泰三郎、藤川清
・日本の陶磁7益子、株式会社保育社、島岡達三
・益子焼、理工学社、小島英一