南雲 英則 陶芸家 


手づくりの土と釉
陶芸家 南雲 英則
Nagumo Hidenori
人類の軌跡とともに、土器から始まり、須恵器、陶磁器が製作されてきたように、生活の基本的な道具として器を製作する技術は、高度に積み重ねられてまいりました。
陶磁器製造技術の完成度は、意図したとおりのものが大量にコピー生産されている事実が物語っていると思います。

工業製品のように均質な材料・調合・加工による器がある一方、人が意図した合理性や機能性と、自然が持つ力を融合させた、自然な美しさをもつ器があります。
生活の豊かさや、うるおいを感じることができる器は、後者の作品が多いことも事実ではないでしょうか。

現在は材料製造・流通の発達により、全国どこでも簡単に陶芸材料を調達できます。

便利さ・安さ・速さを求めるこの時代にあって、自然の力を融合させることは、このような簡便さとは逆のものづくりになってしまうようです。

自然の力を融合させた陶器づくりに勤しむ陶芸家 南雲英則さんの、土づくり、釉づくりに手間をかけ、多くの自然要素を取り入れた作陶の様子を、半年に渡って見せていただきました。
てんちょうも、お手伝いしながら「手間」の一部を体験しましたのでご覧ください。

↑zoom↑良い灰釉になりますように。
笑顔とともに期待を寄せる陶芸家。

釉づくり
~地元のおいしい梨木を使って~

栃木県境に接する茨城県南西部特産「幸水」と「豊水」、甘さ・水分量・滑らかな歯ざわりが素晴らしいこの梨は、盛夏から初秋かけて収穫されます。

→発見!!いばらき『梨』

■ 燃焼準備

3月中旬、樹勢を整え、おいしい梨をつくるため、年末から3月にかけて剪定された梨の枝。
南雲さんの知人である梨農家の方の好意により集められた枝。手指のような細い枝から足の太さぐらいの幹まであります。

ここにある梨を全て焼き、釉薬の原料となる灰を採ります。今回燃やす枝の量は、写真の4~5倍あります。

一週間後にできあがる灰の量と比較してみてください。

↑zoom↑剪定された梨の枝

↑zoom↑燃焼準備中

↑zoom↑梨の枝と筑波山

↑zoom↑いよいよ着火。
生木なので空気を入れながら新聞紙を使って根気よく。
↑zoom↑燃焼する量をまとめているところ。
不純物になる綴じた紐は丁寧に外します。
有害物質発生を抑えるためにも。

■燃焼中

生木とはいえ、一度火がつくと一気に火勢が強くなります。燃え具合をみながら、枝を追加してどんどん燃やします。

黒く炭化した枝はさらに燃えると、真っ白な灰に変化します。
この日は曇天でしたが雨が降ることもなく、風もなくて安全に作業ができました。

今回準備した梨木全てを灰にするには二三日燃やして、その後熾火が数日くすぶるので、灰の回収までには最短でも一週間はかかります。
↑zoom↑最初はちろちろと燃えています。

↑zoom↑瞬く間に火勢が強くなります。
↑zoom↑燃え進むと真っ白な灰に。
加藤唐九郎※1は、昭和四十年ごろまでは人に頼んで風呂や火鉢の中の灰を集めてもらい、これに泥を混ぜて釉薬として使っていました。

このころになると石油や電気の暖房の普及などで灰が集まらなくなり、それまで黄瀬戸※2がうまくいっていたのに、それが思うに任せなくなったと、書き残しています。
※1 かとう‐とうくろう 【加藤唐九郎】
陶芸家。愛知県生れ。桃山時代の陶芸の研究・再現に努め、卓越した技量を示した。(1898 1985)

※2 き‐せと【黄瀬戸】
桃山時代、美濃で焼かれた黄色い釉(ウワグスリ)のかかった陶器。銅釉による緑色の斑文や陰刻の文様を施したものが多い。

■灰を採る

山のようにあった梨木から、30kg米袋2個弱分の白い灰が採れました。一般に灰の量は、元の量の1000分の1~1000分の3程度になってしまうそうです。つまり1000kgの材木から採れる灰は1~3kg程度になるということです。

採れた灰が30kgとすると、梨木を10t程度以上燃やしたことになります。
↑zoom↑梨木が灰になりました。

↑zoom↑回収した灰はこれだけ。30kg米袋2個弱分
↑zoom↑
灰は完全に消火するため
少量の水を加え、
コンテナで混ぜ合わせます。

↑zoom↑てんちょうもお手伝い

■水簸(すいひ)

水簸とは、灰を水に入れると粗粉や砂は沈み、細粉は中間層に、軽いゴミやカスは浮くことを利用した、砂・カス・ゴミなどの不要物を分離し、除去する作業方法です。

↑zoom↑【写真-1】
【写真-1】

【写真-2】

【写真-3】

梨灰をポリ容器に入れ、水を加えます。

↑zoom↑【写真-2】

↑zoom↑【写真-3】
【写真-4】

回収したままの灰は、燃えカス、ゴミに砂などが混ざっています。

浮いたカスやゴミを手で取り除きます。

↑zoom↑【写真-4】
【写真-5】

【写真-6】

よく攪拌して40番メッシュの篩
(40番メッシュ:1インチ=25.4mmあたりの目の数40のふるい) にかけます。

一回目の荒いカスや砂を取り除きます。

↑zoom↑【写真-5】

↑zoom↑【写真-5】

■灰汁(あく)抜き

水簸した後の灰は、灰汁抜きする必要があります。灰汁とは水溶性アルカリのことです。
良質な釉薬を得るためには、これを充分に取り除く必要があります。

灰はそのなかに含まれる酸化カルシウムなどのアルカリ分を釉薬に必要な媒溶剤として用いるのですが、水溶性アルカリは釉薬の縮れ(ちぢれ)や濁り(にごり)の原因となるため、何度も攪拌(かくはん)と水簸(すいひ)を重ね、ヌメリがなくなるまで灰汁抜きをおきないます。

【写真-7】

ヌメリを確認しながら攪拌と水簸を繰り返します。梨灰は比較的灰汁が少ないため毎日繰り返し、ヌメリがなくなるまで1~2ヶ月ほどかかります。藁灰などでは半年以上かかることもあります。

↑zoom↑【写真-7】
【写真-8】

ヌメリの消えた灰を農業コンテナに古シーツを敷き、灰を流し込みます。

↑zoom↑【写真-8】
【写真-9】 (写真は藁灰です)

一年ほどかけて灰を自然乾燥させます。できあがりの梨灰です。これを釉薬の原料として、長石や珪石や酸化金属などを調合します。

↑zoom↑【写真-9】

土づくり

~削りくずなどの再利用と足練り~
ロクロなどで成形した後には、高台や紋様などを仕上げるために土の削りくずが出ます。
削りくずはそぎ落としたものですから、そのまま捨ててしまうにはもったいないものです。

土づくりは、人間国宝の濱田庄司先生や島岡達三先生がおっしゃいますように、陶器の力強さを求めるには重要な要素となっています。

今では、足練り作業は土練機(どれんき)によって機械化されています。 南雲英則氏も土練機を使うこともありますが、足練りにこだわり、できるだけ人力での作業を続けています。

■土の再生

【写真-10】

削り作業などで出たくず土を、三日間天日干します。

↑zoom↑【写真-10】
【写真-11】

【写真-12】

充分に乾燥しもろくなった土を、ポリバケツに移して水に浸します。

↑zoom↑【写真-11】

↑zoom↑【写真-12】
【写真-13】

粘土状になるように力を込めて攪拌します。

↑zoom↑【写真-13】
【写真-14】

40番メッシュの篩を使ってゴミや砂を取り除きます。

↑zoom↑【写真-14】
【写真-15】

【写真-16】

【写真-17】

布を敷いた素焼の鉢に移し、ゆっくりと水分を抜きます。

↑zoom↑【写真-15】

↑zoom↑【写真-16】
↑zoom↑【写真-17】

■土練り

土練りは、土を適度な柔らかさに整えたり、均質にしたり、空気を抜くための大切な工程です。
陶芸家にとっては、土の扱いを身体で覚えるための修練でもあるようです。

【写真-18】

適度に水分が抜け、耳たぶくらいの硬さになった土。

↑zoom↑【写真-18】
【写真-19】

いくつかの鉢から取り出した土が均質になるように、空気を抜くことを意識しながら足で練りこみます。

↑zoom↑【写真-19】
【写真-20】

南雲氏の足練りは美しいです。

↑zoom↑【写真-20】

【写真-21】

もう一度土を塊に戻し、この作業を数回繰り返します。

↑zoom↑【写真-21】
【写真-22】

てんちょうの足練りはこんな感じです。

↑zoom↑【写真-22】
【写真-23】

最後に手でまとめます。

この後ロクロなどで成形する前に、手を使って荒揉み、捻じ込み(菊揉み)して土が仕上がります。

↑zoom↑【写真-23】

南雲 英則さんは、大学卒業後すぐに益子の製陶所で陶工の道に進まれました。
益子から生まれ育った栃木県小山市(同市の益子やから自転車でも行けます)に戻り、築窯・独立されました。

南雲さんの粉引は、ほんのりと緋色を帯びた味わい深い景色となっております。
純和風でありながら、洋風料理のアレンジにもお使いいただける味わい深い器となっております。

釉薬は、近隣特産の「梨」などを用いて、土灰を水簸・灰汁抜きから自作。
ガッチリした体躯 を使って、土と火と木の織りなす、自然との一体感を重視した制作活動をされています

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南雲 英則
Nagumo Hidenori

? 1973年 栃木県小山市に生まれる
1991年 栃木県立栃木高等学校卒業
1998年 早稲田大学社会科学部卒業
1998年 益子で陶芸の道へ
2002年 小山市に築窯、独立
現在に至る

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